世界では、「森を墓地にする自然葬」が進んでいます。ドイツやスイスでは、墓地を森に作るのではなく、森の中の樹木の根元に埋葬するスタイルの墓地が注目されています。環境保全意識の高い国々では、モニュメントを残すよりも言葉通りに「土に還る」試みが急速に広がっています。森林をそのまま保持することができることから、永久に持続可能な地球に貢献できる有意義な埋葬法として脚光を浴びています。樹木の根元に遺骨が埋蔵された森には、一般の方が自由に出入りすることもできます。「亡くなった人も自然の一部である」という考え方がベースにあるからなのでしょうが、普段から散歩している森が埋葬地になるというのは、故人にとっても遺族にとっても、誰にもいつかは訪れる死が決して特別なものでないこと、決して忌み嫌うべきものでないことを改めて私たちに教えてくれているかのようです。
残念ながら、日本においては遺骨をそのままの形状で埋葬することは、定められた墓地以外の場所で行うことができません。樹木葬では、壺に入れた状態で樹木の根元に穴を掘って埋める方法で行われています。壺に入れられた状態であれば、土に還ることはありません。そして、多くの場合、永代供養と謳いながらも、数年経ったら掘り起こされ、別の場所で合祀され、無縁仏と同じような扱いになってしまう場合が大半であり、日本における樹木葬は形ばかりのものとなってしまっています。
アメリカでは、自然保護区に埋葬を行うことで、自然を保全していく仕組みが存在していますし、火葬率が70%を超えているイギリスでは、遺体を火葬せずに森に埋葬する流れも始まっています。いずれの場合も、石碑の代わりに樹木など自然の素材を利用したり、棺やこれに代わる容器や梱包の素材を極力自然分解可能なものに限るなどして、遺体を自然の一部とみなす潮流が世界で主流になりつつあります。
韓国においても、深刻な土地不足の背景から、山林に埋葬する葬法を政府が奨励していますし、中国においても、近年では花壇に納骨する花葬や樹木の根元に埋葬する樹木葬や散骨が奨励されています。
タイには日本のようなお墓はありません。寺院の通路の壁や納骨堂の壁、仏塔などの一部を繰り抜き、そこに遺骨や遺品を安置して蓋をします。仏塔にはたくさんの人の遺骨が納められ生前の写真が貼られていたりします。永遠に安置するわけではなく、数年後に取り出して散骨することが多いようです。ブータンではお墓を作らず遺灰は川に流します。チベットではハゲワシなど鳥獣に遺体の処理を任せる「鳥葬」、インドネシアでは、洞窟に遺体を安置して風化を待つ「風葬」等が現在でも存在しています。
今、世界中で、「お墓の無形化」は国策として進められ、法的な制度も整いつつあります。日本においては、火葬をせずに海洋葬や風葬を行うことは認められていませんが、火葬後に粉骨してパウダー状にして自然と一体化してもらうという「散骨」は可能です。世界中で伝統的な風習とのせめぎあいもありますが、亡くなった人を自然に還すという自然葬の流れは世界中で加速しています。 |