チベットの埋葬方法には、塔葬、火葬、天葬、水葬、土葬、の5つがあります。
・塔葬
「塔葬」は五つの埋葬方法の中で最も名誉ある方法です。「塔葬」は「霊塔葬」とも呼ばれ、一部の貴族だけに行われる儀式です。塔葬により遺体は『霊塔』に安置されます。塔葬は、ダライ・ラマ、パンチェン・ラマなどの法王、生き仏だけに対して行われる葬儀方法で、金や銀、宝石などで飾られた豪華絢爛な霊塔の中に遺体は安置されます。塔葬は、とても独特な方法で行われます。まず、遺体を香料の入った『水薬』で清めて、宝壇に座らせます。次に、バター油の灯明を灯して、信教者たちに参拝をしてもらいます。その後、また香料が入った水薬で遺体を清めて、全身に塩を揉みこみます。塩には、『防腐・吸水』という効果があり、『血液と体液を抜く』という効果もあります。そして遺体がミイラ化するまで、何度も塩を揉みこむ作業を繰り返します。遺体の顔に特別な泥を塗って、顔の形が崩れないようにします。そして遺体に『番紅花・香料』をふりかけて、様々な色のハタを巻き付けて霊塔に入れます。これまでのダライ・ラマ、パンチェン・ラマ、各派の生き仏、黄教の長老などの葬儀は、すべて塔葬で行われています。
・火葬
「火葬」は地位と業績のある僧侶、高位高官、貴人に対して行われます。高僧が亡くなると、僧侶にお経を唱えてもらいながらバター油で火を燃やし火葬にされ、遺骨や遺灰は、土と混ぜられ、仏塔に供えられます。高位高官、貴人の火葬では、遺灰は高い山の上や大きな川に散骨されます。
・天葬(鳥葬)
「天葬(鳥葬)」は、多くの一般人に用いられる葬儀方法です。遺体を部屋の隅に置いた敷物の上に、しばらく安置します。そして、死後3~5日間は僧侶を呼び、朝から夜までずっと枕経をあげてもらいます。この間に、親戚や友人、知人などが弔問に訪れます。死人が出た家では、玄関に『赤い缶』を1つだけ吊るすという慣習があります。缶の中には、血、肉、脂、乳、バター、チーズなどを毎日少しずつ入れていき、死んだ人の『鬼』に食べさせます。チベットでは、死んだ人が鬼になると考えられており、霊魂は肉体を離れているので、死んだ人が自分で食事をすることはできません。ですから、生きている家族が鬼に食事を与えるという目的があります。数日後、総長に遺体の洋服を脱がし、縄で縛り、一本の白い線を引きます。この線にそって遺体を担ぐことが、義務とされています。そして、玄関で遺体を天葬する人に渡します。家族は出棺の際に全員で見送りをするのですが、天葬を行う場所にはいきません。親友や友人たちが、野辺送りをすることになっています。そして、野辺送りをする人は絶対に後ろを振り向いてはいけないというルールがあります。もし後ろを振り向くと、死者の魂が家に戻ってしまい、災難をもたらすと考えられているからです。天葬は街はずれの山で行われます。大きな自然石を『天葬台』として使い、その上に遺体を安置します。周りには、松などの香木を積み上げていき、火をつけます。煙がどんどん立ち上るのですが、この煙によって、『天の鷹』つまり『ハゲワシ』に報せを出しているのです。ハゲワシは煙を見つけると、食べ物を探すという習性があります。この時点で、すでに天葬は始まっています。遺体の背中を解剖し、もし遺体が僧侶の場合には背中に宗教上の『模様』をつけていきます。内臓を取りだし、肉を刻み、団子状にします。まずは、骨からハゲワシに与え、その次に肉を与えていきます。そうすることで、少しも体を残すことなく『昇天』させることができると考えられているからです。
・水葬
「水葬」は、孤児、ホームレスなどの経済的に恵まれていない人のために行われる葬儀方法です。遺体を川岸に運び、関節で切断をして川の中に投げ込みます。地域によっては、切断をしないで白い布で包むだけで川に投げ込む場合もあります。チベット南部にある深い谷の地域では、ハゲワシがこないので、多くの場合が水葬を行います。
・土葬
「土葬」は、天然痘、ハンセン病、タンソ病などで病死した人、罪を犯した人、殺された人などのために行われる葬儀方法です。法律的に天葬、水葬をすることが許されない人たちを土葬することになります。地面に穴を掘って、遺体を埋めるという至ってシンプルな方法です。 |